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もちろんイスラム教徒として、メッカのカーバ神殿とメディナの預言者モスクには参拝したい。
王様が守護する神殿。王家は百万人を超えるムスリム・ムスリマ(女イスラム教徒)の巡礼に際し、無料で食事を提供してくれる。
だが、オレの野心は別の所にある。ラクダレース。この大会で上位入賞を果たし、名前を刻みたいんだ。
「頼むぜ、相棒」
8年間寝食を共にしたラクダを一撫ですると、ぶるるん、と嘶いた。
乳歯は抜け落ち、永久歯が生えそろっている。相棒の年齢はベストに近い。
「よう、イスム。一年ぶりだな」
聞きなれた声。振り向くとライバル、かつ友人のファドゥルが日焼けした顔で笑っていた。衣装はオレと同じ、真っ白なカンドゥーラだ。
「いいだろ、これ。日本製だぜ」
ファドゥルがカンドゥーラを見せびらかす。
「ホントか? どれどれ」
生地を眺め、袖口の布地を触る。
布の肌触りが段違いに良かった。しかも、真珠を思わせる純白だ。
「すげえな、この生地。どうやって織り上げたのか見当もつかない」
ただただ感嘆する。
色々なアジア製の織物を見てきたが、細部の仕上がりと白一色に染め抜く技術は他の追随を許さない。
「ファドゥル、お前日本に憧れていたもんな」
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