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1話 その人は。
「宮内先輩!」
放課後。歩いていると自分の名前を呼ばれた。きゃっきゃと楽しそうな声が耳に入ってくる。振り返ればそこには複数人の女子生徒がいた。手に可愛らしい包みを持って。
「あ、あの!えっ……と……これ! 今日の調理実習でクッキー作ったんです!よ、よかったらもらってください……!」
女子生徒のうちの一人が顔を赤くしながらそう言ってきた。差し出された包みは水色だが可愛らしいデザインだ。もらってほしい、そう彼女は言っている。だが……
「すまないが、そう言ったものは受け取れない」
そう告げれば女子生徒は今にも泣きそうな顔になった。しかし無理矢理笑みを浮かべ、キュッとクッキーの入った包みを握りしめた。
「そ、そうですよね! ごめんない、時間とらせちゃって……宮内先輩お忙しいのに……」
「いや……こちらこそすまない」
「いえ! では失礼しますね!」
気丈に振舞っていたのだろう、その女子生徒が他の女子生徒とともに去って行く際に震えた声で「ダメだった」と言ったのが聞こえた。今までに何度もこういった事はあった。その度に断り続けた。こちらが好意もないのに受け取るのは失礼だと思っているからだ。だが今は――「……はあ」
一つ、溜息をついた。ある理由がありその理由から余計に女子生徒から物を受け取れない、……前の自分ならこうではなかった。
目的の場所へ行こう、そう思い階段を上がる。これから訪れる場所は密かに楽しみにしている場所だ。場所自体が好き、というのもあるがそれ以外の理由もあった。
少し古くなった扉を開ける。中に入るとそこには本がずらっと並んだ棚がいくつもある。そう、ここは図書室だ。足を図書室のカウンターへと進めていく。そこには――
「いらっしゃい。今日も来たんだね?宮内くん」
一瀬 朔さん。俺の一つ上の高校3年生で、学園の高嶺の花、なんて言われている。
「朔さん」
「今日はどうする?勉強、してく?」
俺の、女子生徒から物を受け取れない理由の人。
「……はい。してきます。……今日も教えてもらっても?」「えー? 宮内くん頭いいのに私に聞く必要あるかなあ」
好意を持ってる人がいるのに、他の女子生徒から物を受け取るなんて不誠実だと思ったからだ。
「そんな事ないですし、朔さんに教えてもらいたいんです。駄目ですか?」
「そう言われちゃうと断れないなあ……。ところでおだてても何も出ないよ?」
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