2話 これが_というもの。

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 そう考えながら俺はじっと見ていたのだろう。その女子生徒はこちらに気づいたようで視線が交わった。  どきり、心臓が鳴った。目が潤んだその姿に目眩がしそうだった。  ――なんだ、これは  するとその女子生徒は鞄から出したハンカチで目元をおさえながら「ごめんね、びっくりしたよね」と言った。俺は体が固まったように動かなかったが、ハッとし声をかけた。 「……大丈夫か」 「本当にごめんね、なんでもないの。ありがとう」  本人がそういうのだから大丈夫なのだろう、その時の俺はそう思うことにした。……胸の鼓動は、気づかないふりをして。 「もしかして本借りに来た? 私図書委員だから何かあったら気軽に言ってね」  そう言われて「しまった」と思った。完全に誰もいないと思い休むために来てしまった。まさか本を借りに来たわけでも、読みに来たわけでも、勉強をしに来たわけでもないのはまずい。……それでもとにかく休みたかった俺は正直に言うことにした。 「すまないが……少し疲れていて。ここで休ませてもらっても構わないか?」  そう言うと女子生徒はポカンとした後、少し笑みを浮かべ「いいよ」と言った。‥‥その笑みにすらくらくらする。 「本当は保健室に行ったほうがいいと思うんだけど……ここでいいなら」 「いや、保健室に行くまでではないんだが少し休みたくて。それよりも許可してくれてありがとう。助かる」 「いえいえ。どうせ誰も利用者なんていないし……休みたい時ってあるからね。どうぞどうぞ」  そう言うと女子生徒は「一応、お名前聞いてもいい?」と言ってきた。この女子生徒は俺が今騒がれてる人物だと知らないようだが、名乗って騒がれたら、と思ったが良くしてもらっておいてそれはないだろう、と「宮内蓮だ」と名前を伝えた。 「宮内くんね。私は朔。一瀬朔っていうの。よろしくね」  ああ、この人が。  高嶺の花だと騒がれていたのはこの人だったか、それが一番最初に頭に浮かんだ。納得だった。確かに美人だ。柔らかい雰囲気にちょっとした仕草が繊細で。  ちょっと待て。一瀬朔という女子生徒は1学年上の先輩ではなかったか。……やってしまった。先輩に敬語を使わないなんて。 「すみません、先輩だと気づかず馴れ馴れしく……」 「あ、やっと気づいてくれた? でも別にいいよ、タメ口でも」 「いえ、そういうわけにはいきません」
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