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一瀬先輩は「本当にいいのになあ」と言って笑った。いくら一瀬先輩がよかろうと先輩に敬語を使うのは当たり前の事だ。わきまえないといけない。
「あ、ごめんね。邪魔して。疲れてるんだったら一番奥の机がいいよ。誰も来ないと思うけどあそこは本当に誰も来ないから。ゆっくり休んでね」
その優しさに余計に胸が鳴る。疲れよりも何よりもそっちでどうにかなりそうだった。
「……ありがとう、ございます」
そう言うのが精一杯だった。
奥の机へと進み椅子に座り机に鞄を置いて突っ伏す。少し寝ようと思い俺は眠りについた。
目を覚ますと外はうっすらと暗くなり始めていた。やばい、寝すぎた。そう思って急いで鞄を掴み図書室の出口を目指した。
「宮内くん? 起きた?」
は?
声が聞こえてきて、思わずそう口から出た。何でこの人まだここに……
「いやあ、宮内くんぐっすりだったから。起こすのも悪いかなと思って。……起こしたほうがよかった?」
「いや、大丈夫ですが……」
辺りはもう薄暗い。なのにこの人はまだここにいる。
「一瀬先輩、帰らなかったんですか?」
「宮内くん寝てるし……私だけ帰るのも悪いかなと思って」
もし先輩が図書委員の鍵当番ならば俺がいる事情を先生に言えばどうにかなったはずだ。そうでなくてもこの先輩は俺を待っていてくれたというのか。……先輩は深く考えてないかもしれない。それでも俺はその先輩の優しさが嬉しかった。
「とにかく帰りましょう。送ります」
そう言いながら二人で図書室から出る。ガラガラと一瀬先輩が扉を閉め鍵をかける。一瀬先輩はこちらを振り向ききょとんとしてから「悪いからいいよ」と苦笑しながら言った。
「大丈夫だよ。宮内くんも遅くなったらお家の人心配するだろうし」
そう一瀬先輩はいうが、俺が寝ていたことに非がある。それに一瀬先輩は女性だ。危ない目にあうかもしれない。……まだ一瀬先輩と喋っていたい、という気持ちもあったが。
「ですが、俺のせいですし危ないですよ」
「大丈夫大丈夫! 鍵返して帰るから! じゃあね!」
「ちょっ――」
一瀬先輩は俺に言葉を喋らせないようにさっさと行ってしまった。追いかけることもできたが、一瀬先輩にあまりしつこくしてもよくない。そう思い、その日は1人で帰った。
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