第二章

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 彼女の父親が左大臣になれたのは、実力もさることながら、朔の一番上の姉が最高官職である太政大臣の息子の妻となり、二番目の姉が親王の妻となったからだ。それが悪いことだとは思わない。権力者と娘を縁付かせるのは、ごくあたりまえのこと。娘は政治の一環となる。残った娘を使い、権力者とつながるために苦心をするならまだしも、こんな田舎の別荘を与えて、好きにさせるというのはどういうことか。  隆俊が苦い顔をしているのにもかかわらず、好きに歩きまわっている朔を見つめながら考える。 (こんなふうにしていると知られれば、不利になるのではないか)  おかしな姫だというウワサが強まれば、いくら左大臣の娘であっても、相応の地位をすでに得ている者であれば求めないだろう。変わり者の姫よりも、将来有望そうな者の血縁である、公家の常識に則った姫がいいという話になる。 (やはり姫は、誰か言い交わしている相手がいるのではないか。だからこそ、気にすることなく過ごしておられるのでは)  この場所ならば、姫が好きにふるまっても問題は無いだろうと、そういう考えで別荘がここに建てられたのではないか。のびのびと姫を過ごさせようと都から離れた、けれど遠すぎない別荘地として、ここを選んだのではないか。 (家人を厳選したのも、都の窮屈さから解放させようと思ってのことだとしたら)  そこまで考えて、真夏は唇を引き結んだ。 (朔姫には相手がいる。その相手と結ばれる前に、好きに過ごさせようという父心から、この別荘を建てたと考えるのが、一番自然だ)  そう結論付けてから、真夏は自分の考えを、全力で否定したがっている自分がいることに気付いた。 (どうやら俺は、姫を本気で妻にしたいと思いはじめているらしい)  真夏は皮肉に口の端を、片方だけ持ち上げた。  ◇◇◇  まずは自分の考えが、空論であるという証拠をつかむことだと真夏は判じた。そのためには積極的に、家人の中に入っていかなければ。  朔は芙蓉とともに、楽しげに歩いている。その少し後ろで、隆俊が苦々しげな顔をしていた。  朔が別荘に入ってから、隆俊は毎日のように彼女を連れ出しにやって来る。といっても、まだ三日目だ。三日坊主で終わりそうだなと、真夏は隆俊の様子を見ていた。
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