第三章

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 口を尖らせた子どもは文句を言いつつ、屋敷の周辺から離れ田畑の横を通り、湖まで彼女らを案内した。歩いているうちに子どもの数が増えていき、いつの間にか里中の子どもたちが集まったのではないかと思うほどの、大行列となった。 「これでは、おやつが足りないわね」  朔は家人に菓子を用意させていたのだが、これほど多くの子どもが集まってしまっては、足りそうにない。 「大丈夫だよ」  朔のつぶやきを聞いた子どものうちのひとりが、さっと脇の森へ入った。それに続いて、他の子どもたちも森の中へ消えていく。 「姫様たちは、ここで待ってて」  やがて子どもたちは全員、森の中に姿を消してしまった。家人が敷物を広げ、追いかけるわけにもいかない朔と芙蓉は、その上で子どもたちを待つことにした。  やがて子どもたちは、それぞれの手に何かを持って戻ってきた。 「おやつは、なかったら森でとってこればいいんだ」  ほら、と子どもが朔に差し出したのは、小さな茜色の果実だった。 「キイチゴ。おいしいよ」  子どもがひとつ、食べてみせる。おそるおそる手を伸ばし、朔も食べてみた。 「おいしい」  朔が目を丸くすれば、子どもは得意げに歯を見せて笑った。 「こっちも、おいしいぜ」  次に差し出されたのはイヌビワで、それも朔は食べてみる。 「ほんとう! おいしい。すごいわ」 「おやつは山で採るもんで、もってくるもんじゃないからな」 「な」  子どもたちのたくましさに、朔は感心をした。 「芙蓉も食べてみて。とってもおいしいから」 「それでは、いただきますね。――まあ、ほんとうにおいしゅうございますね」  子どもたちは胸をそらして次々に、自分の取ってきたものが誰のものよりも一番あまいと主張する。 「まって、まって。そんなにたくさん、一度に食べられないから」  わいわいと子どもたちは、朔や芙蓉だけでなく、家人らにもすすめた。 「まだまだ、森の中にはいろいろあるから」 「すごいのね」  朔は、用意をされたものしか食べたことがない。これらの実が、どんなふうに育つのかを知らず、どんなふうに採るのかを知らない。 「私も、森に入って採ってみたいわ」  子どもたちは、朔の言葉に顔を見合わせ、それじゃあ一緒にいこうと言った。
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