第十三章

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「笛の音が、姫の心を伝えてくれました」 「真夏!」  たまらず朔は御簾をはね上げ、真夏の胸へ飛び込んだ。 「朔姫」  おどろきながらも、真夏はしっかりと抱き止める。 「高貴な姫は、そのように軽々しい行動を取るものではないはずですが」  からかう声音に、朔はよろこびの涙を浮かべた顔を上げた。 「変わり者の姫と評判の私よ? やはりウワサは本当だったと言われるだけだわ」  誰の恋文にも返答をせぬ姫が、というおどろきが漂う中、朔は真夏の胸に包まれる幸福に浸る。 「ああ、真夏。会いたかった」 「朔姫。俺も、お会いしたかった」  帝が硬直する公忠に、楽しげな声をかけた。 「器量を知らしめる良い機会だな、公忠」  朔は真夏に身を寄せたまま、額に青筋を立ててブルブルと震える父の政敵を見た。  公忠は拳をにぎり、歯を食いしばり、必死に思惑とは違う光景をにらみすえている。 「まさか許さぬ、などと了見の狭い事は仰られませぬよなぁ」  実篤の言葉に、次々と真夏の申し出を受け入れよという声がかかる。それに押されるように忌々しげに、けれど顔には引きつった笑みを張り付けて、公忠が言った。 「許す!」  それ以上の言葉を放つ余裕を、公忠は持っていなかった。  わっと人々が沸き、信じられない思いで朔は真夏を見上げた。 「誓いを果たしに来ました。朔姫」  朔は湧きあがる感情に喉を詰まらせ、どんな言葉も出せなかった。大粒の涙を流す朔は、真夏の胸に顔を埋める。それを、しっかりと真夏が包んだ。  皇子の誕生を祝う席が、二人の婚姻を祝う席ともなった。
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