卯月 アジとこごみ

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「事故かな?」  一楽は、何かあったんじゃないかと心配して、音の方を見た。  貴和美も、尋常じゃない音になんとなく胸騒ぎがする。  駐車場で、急ブレーキをかけた乗用車がエンジンをふかせて急発進で走っていった。  そこは、プロボックスが駐車されているあたり。  つまり、天糺たちがいるはずだ。   「戻ろうか」 「はい」  何かあったんじゃないかと心配になった二人が急いで駐車場に戻ると、天糺が風糺の首根っこをくわえて立っていた。  風糺の四肢は、プラーンと垂れている。  山糺は、おびえて車の下に隠れている。 「天糺、何かあったのか?」  天糺は、風糺を下に置いて離した。  風糺に怪我はなく、地面に置いたら元気に動き出した。  天糺は、説明した。 “風糺が、見境なく虫を追いかけて車の前に飛び出したけど、ミーがとっさに捕まえて避けたから大丈夫だ。心配かけちまったな” 「えー、危なかったね。無事でよかったー!」  貴和美は、2匹の無事を心から喜んだ。 「おおかた、風糺が調子に乗って車の進行を邪魔したんだろう。これからは、気を付けろよ」  一楽は、風糺の頭を撫でた。  天糺のお蔭で無事だったことまでは、言葉の分からない一楽は分かっていないようだ。 「ほんと、賢いのね」 “まあな”  天糺は、偉そうに鼻をツンと上に向けた。  貴和美は、自分のセリフが変な感じになっていなかったか、ちょっと気になった。  しかし、そこに一楽は一切触れない。
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