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貴和美があまりに自分を凝視しているから、心配になった一楽は、自分の恰好を見返した。
「俺、どこか変なところがあるかな?」
「とんでもない! 今日は、一段とおしゃれですね」
「そうでもないよ。普段着」
ちょっと得意気になったから、貴和美にはすぐ見抜けた。
気合を入れておしゃれしたことを、悟られまいとしている。
「とても素敵です。ところで、お店はどんなところですか?」
プロの目で選ぶ方が間違いなさそうなので、お店選びを一楽に任せていた。
「フレンチにした」
「フレンチ? 一楽さんがフレンチを選ぶなんて、ちょっと意外です」
「フレンチもイタリアンも中華も食べるよ」
貴和美には、和風イメージの染み付いている一楽に和食以外を食べるイメージはがなかった。
「その店は、友人がやっていて、うちと同じように鎌倉野菜を使っている。とても美味しいんだよ」
「一楽さんのお友達ですか。私、緊張しちゃうかも。フレンチも慣れていないし、大丈夫でしょうか?」
一楽に恥をかかせないですむか、貴和美は不安になった。
「気楽な店で、友人も気のいい奴だから何にも構える必要なんかない。注文は俺に任せて、貴和美ちゃんは黙って座っていていいよ」
全部、一楽に任せればいいということで、少し気が楽になった。
「じゃ、行こうか。お前たち、留守番を頼むよ」
“行って来い”
「ニャー」「ブニャー」
天糺たちに見送られて、二人は店に向かった。
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