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海から吹く湘南の浜風が、一楽の髪を揺らしている。
店では、手ぬぐいを頭に巻いていたために見えなかったが、一楽の髪はやや長めだ。
貴和美の髪も、強い浜風に乱された。
何度も手櫛で直すが、効果がなくてきりがない。
ふと気づくと、一楽が貴和美の顔を見ていた。
(なんだろう?)
一楽の瞳に、自分が写っている。
見つめられて、貴和美は胸が高鳴った。
「一楽さん……」
「髪が乱れている」
風で乱れた貴和美の髪を、一楽は優しく直してくれた。
先ほどまでうるさく聞こえていた波音、風の音、カモメの鳴き声……。全ての音が、遠くなる。
しかし、夢の時間は次の瞬間に終わった。
“キキキイィーーー!!!”
耳をつんざくような、タイヤのこすれる音が遠くに聞こえて、すべてが元の世界に戻った。
波音も、風も、カモメの声も、果ては、サーファーの声までよく聞こえてきた。
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