二章 真実の口

50/55
前へ
/289ページ
次へ
「だめだよ、れおくん。き、きたないから……そんなところ」 「嫌だったかい?」  倒錯的な光景だった。  見るからに育ちの良さそうな貴族の青年が、楽しそうに男のものを握り、なんの嫌悪感もなくしゃぶり、微笑んでいる。  あまりにも、あんまりな状況に理性はすでに追いつかず、ばくばくと高鳴る心臓に、視界が明滅している。倒れそうだ。。 「い、いやじゃ……ない、けど」  することはあっても、されることはなかった。  エヴァンは、抱きつぶされてきたビーシュを気遣ってくれているのか、もとより激しい情事を好まないたちなのか、驚くほど優しく抱いた。  まるで出会ったばかりの恋人のように、言葉を紡ぎ、快感を紡ぐ。エヴァンとの情事は、夢心地のまま朝を迎えることが多い。 「嫌じゃないなら、して良いかな?」  萎えていた中心はすっかり堅さを取り戻し、先走りは粘度を増してゆく。  なんて、浅ましい体なのだろう。ビーシュは情けなさに、眦に涙を浮かべた。  答えられないでいるビーシュを、レオンハルトは急かしたりはせず、ゆるい愛撫を続けながら、のっそりと起き上がった。  少し日に焼けた肌には、ビーシュが残した爪のひっかき傷が赤く散っていた。  夢ではない。     
/289ページ

最初のコメントを投稿しよう!

690人が本棚に入れています
本棚に追加