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三章 寒空のした
1
「また、あとで」
そう言葉を残して工房を出て行ったレオンハルトを見送って、ビーシュは寝所を振り返った。
一人で眠るにはちょうど良いベッドも、成人済みの男二人で横になるにはさすがに無茶があった。まして、睦み合うには狭すぎる。
シーツは当然ぐしゃぐしゃで、二人分の体液を吸い込んでぐっしょりと濡れている。
「洗濯するよりも、捨てたほうが早いかなぁ。古いし、ちょうど良いのかもしれない。……お金は、ないけど、しかたないよね」
頼めば、病院のシーツと一緒に洗ってもらえるだろうが、さすがに気が引けたし、余計な詮索をされたくなかった。
相手は行きずりの男ではなく、すぐ隣の軍部に所属する若い軍人だ。変な噂をたててはいけない。
「駄目だよね、どうしてぼくは断れないんだろう。レオくんよりもずっと年上なのに。ずるずる、流されっぱなしだ」
情事の名残である独特な臭いを換気しようにも、半地下の工房は空気が滞りがちだ。
天井付近にある窓を一生懸命、がんばって開けたとして、綺麗さっぱり消えるまでは時間が掛かるだろう。
ビーシュは重い腰を引きずって、キッチンに移動した。体のあちこちがぎしぎしと軋むようだ。
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