一章 矢車菊の青い瞳は

11/51
前へ
/289ページ
次へ
 人混みをかき分け、アーカム家所有の馬車にたどり着く。  出てきた御者に荷物を預けると、軽くなった肩にレオンハルトはほっと息をついた。 「レオンさん、姉さんを……」  切羽詰まった表情のニルフが顔を上げた時だ、レオンハルトは小さな悲鳴をきいて、ニルフから視線を逸らした。  こつん、と。つま先に何かが当たった。 「おやおや、これはなんだろう」  きらきらと光る、ちいさな石のようなもの。 「なっ、なんですかそれ、気持ち悪い」  手元を覗き込んだニルフが、嫌悪感をむき出しにする。  レオンハルトが拾ったのは、深い緑色をした眼球だった。むろん、本物ではない。ひんやりとした硬質的な感触は石のようだった。 「これは、義眼のようだね。とても、綺麗だな」  人差し指と親指で摘まんで持ち、レオンハルトは拾った義眼を日の光にかざす。  つるっとした、鏡のような表面。  ゆがみのない球体。  光彩の部分に使われている石は、ペリドットだろうか。医療用というよりは、宝飾のようだった。 「あっ、そ……それ」  しげしげと義眼を眺めていたレオンハルトは、消え入りそうな声に顔を向けた。 「これ、あなたのものかな?」  問えば、男はこくこくと頷いて見せた。     
/289ページ

最初のコメントを投稿しよう!

690人が本棚に入れています
本棚に追加