三章 寒空のした

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 激しい夜を過ごし、朝、けだるさに目覚めたビーシュをそっと撫でてくれる暖かい手の感触は、思い出すたびに、じりじりと胸が焦がれてゆくようだ。 「本当に、ぼくは都合のいい人間だ」  珈琲の苦みが、ほんのりと強くなる。  誰の手でも喜んでしまう体は、本当に都合が良い。ふわふわとした夢心地な気分は、腹が冷えると同時に嘘のように醒めてゆく。  誰でもかまわないのかと問われたら、頷きたくはないが否定はできない。後ろ指をさされても、文句の言えない人生を送っている。 「どうして、エヴァン様もレオくんもぼくに優しくしてくれるんだろう?」  硝子細工を扱うよう、丁寧に、情熱的に触れてくる手は、いっそ戸惑うほどに優しく甘かった。  エヴァンも、レオンハルトも、いままでビーシュを抱いてきた男たちとはだいぶ違っていた。 「ぼくは、どうしたらいいんだ?」  サファイアを取引の材料に、体を重ねているエヴァンの存在を知ったら、レオンハルトの目はどんな色に変わるだろう?  夜な夜な、男を買いあさるために街をさまよっていると知ったら、汚らしい男だと見放すだろうか。  珈琲を啜る。  優しくされると、自分の存在は彼らの期待を裏切っているのではないかと、漠然とした不安に駆られるのだ。  いつも、そうだ。  考えすぎだと、笑われるかもしれないが。どうしようもない、クセみたいなものだ。     
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