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「……今日は、とてもじゃないけど作業ができそうにないなぁ」
体は重いし、心は上の空だ。
真摯に仕事に向き合えるような状態ではない。
無理を押して仕事をすれば、中途半端な仕上がりにがっかりするのが目に見えている。
ビーシュはカップの珈琲を全部飲み干して、シンクに置いた。いつもはフィンが片付けてくれるのだが、彼はまだ当分戻ってこない。
石けんを泡立て、汚れをこすり落としながら、ビーシュは気持ちを切り替えるよう今日の予定を頭の中で組んでゆく。
幸いにも、天気は良い。
昼までぶらぶらと街を歩けば、少しは気が晴れるだろう。
なにより、新しい珈琲豆を買わなければいけない。レオンハルトとのランチの次に大事な用事だ。
「いっときの夢でも、いいじゃないか」
不幸ばかりでは、生きてゆけない。
何れ真実に気付いて離れてゆかれるのだとしても、今の一瞬は、夢に見た幸せを体験できる。
「寂しい朝は、やっぱり嫌だからね」
来る者は拒まず、去る者は追わず。ビーシュなりの処世術だ。
手招きをされたらそばにはゆくが、踏み込みはしない。自分なりの距離を取ることで、弱々しい心を守っていた。
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