三章 寒空のした

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 何を考えているかわからないと気味悪がられることも多々あるが、悲しい思いをしないためにはしかたがない。 ◇◆◇◆  酒でもかっくらって、ふて寝をしたい気分だ。  今はとにかく、なにもかもを否定したかった。泥酔して目が覚めれば、全部夢だったなんてくだらない結末でも大歓迎だ。  ニルフは宝物庫に新しい錠をかけ、何度も振り返りながら階段を登って一階に戻った。  古びた鉄製の扉の向こうには、純白のドレスが眠っている。  昨夜遅くから、アーカム家は騒然としていた。  オスカー家の末弟、レオンハルトへと嫁ぐエリスのために購入したティアラが、正体不明の男に盗み出された。  誰もが右往左往する中で、一番動揺していたのは当主であるデニスではなく、ニルフだった。  デニスは大慌てで宝物庫に向かい、ティアラ以外の宝物は手つかずのまま残されていたのを確認すると、安堵からか腰を抜かしベッドに伏せってしまった。  復活するまでは、まだ少し時間が掛かりそうだ。 「いったい、誰の差し金だ」  ぎりぎりと唇を噛みしめ、すれ違うメイドを視線で押しのけて二階へと上がる。  手を伸ばせば掴みかかれるくらいの近距離にいて、どうして動けなかったのか。     
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