三章 寒空のした

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 ここ数日はエヴァンと過ごし、昨晩はレオンハルトと過ごした。財布事情もあるが、もうずっと、男を買うためにバーには行っていない。 「たしかに、今はとても幸せだ。でも、いつまでも続くとは思えなくて」  どんな物事にも、永遠なんてありえない。  わかっているからこそ、大事なものを得るのに躊躇する。  失うつらさを思うと、どうしても逃げ腰になる。エフレムのようにやり過ごす器用さがない以上、ビーシュには逃げるしか道がないように思えた。 「ありもしない奇跡を、望んでみてもいいんじゃないか。まあ、俺が言うんじゃ説得力なんてみじんもないかもしれないが」  エフレムはビーシュに渡した豆を取り上げて、会計台へと持って行った。  あわてて後を追うが、エフレムは二袋分の金額をレクトに渡していた。 「まあ、ゆっくり答えをだせばいいさ。生きている限り、時間はあるんだ。嫌になるくらい、たっぷりと」 「餞別だ」エフレムは自分用の豆だけを持って、珈琲店を出て行った。  一人、取り残されたビーシュはありがたく贈り物をいただき、レクトに向き直る。 「どうしたんです? なにか、聞きたいことでも?」 「レクトさん、貴方はいま、幸せですか?」  少しばかり驚いた顔をみせたレクトは、あくせく動き回る夫人を見やって「ええ」とうなずいて見せた。     
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