三章 寒空のした

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3  奇跡を信じられないのは、弱気ではなく、諦めなのだろう。  レオンハルトはまだ来ていないようで、ビーシュは一人、テラス席で珈琲を啜っていた。  時刻が時刻なので昼食も勧められたのだが、メニュー表を見てもどんな料理なのかさっぱり想像がつかなかったし、レオンハルトには食べさせたい料理があるようなので断り、「珈琲と一緒につまめるものを」とたのんだら炒った豆をくれた。  子供の頃、よくおやつとしてかじった豆も、綺麗な皿にのっていると高級品のように見える。  久しぶりに訪れた真昼の街はとても穏やかで、両親に捨てられた頃を考えると、随分とましな人生を歩めているのではないかと思えてくる。幸せと呼ぶには、すこし空虚でもあるが。 「たぶんぼくは、望むのに疲れたんだ」  深く考えようとすればするほど、自分の人生が他人事のように思えてくる。  ビーシュを育ててくれたのは、母方の祖父だった。  元軍医で装具技師。ビーシュの今の生活の道筋を作ってくれた師匠でもある。祖父がいなければ、もっとひどい結末をむかえていたかもしれない。それこそ、体を売って生きていたかもしれない。  暖かい珈琲に、ほっと息をつく。     
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