三章 寒空のした

19/55
前へ
/289ページ
次へ
 ふと、頭上からおちてきた声に、ビーシュは頬を赤らめた。 「おつかれさま、レオくん」  軍服のレオンハルトは隣に立つ店員に昼食の注文をし、ビーシュが座っている丸テーブルの向かい……ではなく、隣に座った。  肩が触れるほどの近距離に、ビーシュは苦しく脈打つ胸を押さえた。 「ごめんね、驚かせてしまったかな。思ったより仕事が片付かなくてね、遅れちゃったよ。まったかな?」  すぐに運ばれてくる珈琲に手を伸ばし「おいしいね」と目配せしてくるレオンハルトに、ビーシュは頷きかえした。 「ぼくも寄りたいお店があったから、休憩になってちょうど良かったよ」  レオンハルトが頼んだのか、ビーシュの前にも湯気の立つ珈琲カップが置かれた。 「その……おいしい珈琲豆が欲しいなって思って。レクト珈琲店ってしっているかな? 良く行くお店なんだけど、そこで豆に詳しい友達に会ってね。豆をおすすめしてもらったんだ」  ビーシュは胸をぎゅっと押さえて、饒舌になる口にうろたえていた。 「ぼく、珈琲がとても好きなんだけれど、好きなだけで全く詳しくなくて。……おかしいよね、好きなのに」     
/289ページ

最初のコメントを投稿しよう!

690人が本棚に入れています
本棚に追加