三章 寒空のした

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 何を言っているのかわからなくなるほど、舞い上がっている。青い瞳が、じっと、ビーシュを見ていた。息が苦しくなるほど、胸が高鳴っている。  レオンハルトからみても、わかりすぎるほどに浮かれ上がっている。みっともないと、思われていたら辛い。 「おかしくないよ」  あたふたしているビーシュをじいっと見つめたまま、レオンハルトは珈琲を啜っている。穏やかな様子に、ビーシュは深呼吸をして胸中を落ち着ける。 「僕だって、ビーシュがとても好きなのに、ビーシュのことを何一つ知らない。いや、何一つってわけでもないか」  するっと太ももを撫でてゆくレオンハルトの左手に、ビーシュはびくん、と大げさなほどに体を揺らした。 「まあ、とにかく。好きだからって、なにもかもを知っていなきゃいけないってわけでもないよ。詳しくなければ好きになる資格がないなんて、とても心の狭い言い分だよ。誰が言ったかはわからないけれど、真に受けなくて良いんだ」  程なく、甘い香りが漂ってきた。  レオンハルトの言葉と相まって、喉元で詰まっていた緊張がするりとほどけ、ビーシュは両手を膝の上に置いた。 「ビーシュ、どんな豆を買ったのかな?」  運ばれてくる料理を一瞥し、レオンハルトは空席の椅子に置かれた紙袋を視線で指した。     
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