三章 寒空のした

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「どうだろう、おいしいのは絶対だけど味はいれてみなくちゃわからない。でも、たぶんとても美味しいよ」 「面白いね。是非、飲ませてもらいたいな。ビーシュがいれてくれた珈琲は、とてもおいしかったから」  レオンハルトが注文した料理は、ふかふかのパンケーキだった。  白い陶器に入った蜂蜜は、金を溶かして流し込んだようにきらきらと美しく輝き、周囲を彩るごろごろとした新鮮そうな果物は、ルビーやエメラルドのようだ。 「甘い物なら、すこしは食べられるんじゃないかと思ってね」  質の良い小麦の香りの甘さは、小食のビーシュでも十分に食欲を刺激された。 「ありがとう、レオくん」 「だいぶ、無理しちゃったからね」  なにかされただろうかと首をかしげたビーシュは、ほくそ笑むレオンハルトの淫猥な色をともした視線に気付いてうつむいた。 「む、無理じゃないよ……気にしなくても、大丈夫だから、ね」  今に始まったことではないし。ぼそっとつぶやいて、ビーシュは慌てて口をふさぐ。聞かれていないだろうか、声が届いていないといいのだが。 「もっと、激しくてもいいの?」  昼のカフェテラスでする話ではない。  ビーシュはちらちらと周囲を伺うが、幸いにも、みな話に夢中で気付いていないようだ。     
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