三章 寒空のした

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「レオくんは、ぼくのことを知らないから良くしてくれるんだよ。軍病院でぼくのことを誰かに訊いてみるといい、たぶん、騙されたとおもうよ。ぼくは、このパンケーキみたいに綺麗な人間じゃないんだ」  甘酸っぱい香りなのに、どうしてか目の奥が痛くなる。 「ビーシュのことは、ビーシュの口から教えて欲しい。ほかの誰かの口が語るビーシュは偽物でしかない。良いことも悪いことも、心からは信じられない」  パンケーキを切り分ける手を止めず、レオンハルトは続けた。  ビーシュが何を言っても揺らぎそうにない穏やかさは、すこし恐ろしくもある。 「ビーシュがどんなことをしてきたか、何者であるか。たぶん、ビーシュが気にするほど僕は驚かないと思うよ。なにせ、僕自身がかなり特殊で問題な人間らしいからね」 「変人には、見えないけど?」  どう受け取れば良いのだろう。肯定すれば良いのか、否定すれば良いのだろうか。  頭を悩ましていると「まずは食べよう」とレオンハルトが促してくる。  手元を見ると、おいしそうなパンケーキは、だいぶ冷めているようだった。  せっかくのごちそうなのにもったいないと思ったが、レオンの唐突な告白に頭はついて行けず、ろくに味もわからなかった。
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