三章 寒空のした

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「名前なんざ、どうだって良い。答えろ。レオンハルトさんの何なんだ?」 「友人、かな?」  無難な落としどころと思ったビーシュだったが、ニルフと名乗った青年は納得が行かないようだ。  眉間の皺を深くし、眦をつり上げてビーシュに掴みかかってくる。 「友人が、キスをするのか? 頬ではなく、口に? それも、舌を絡めて?」  ニルフは、テラス席での睦言を見ていたのか。  ビーシュは恥ずかしさに頬を火照らせる。 「まあ、いい。いくらだ? いくら払えば、レオンさんから手を引く?」  憲兵を呼びかねない周囲の雰囲気に、ニルフはビーシュから手を離し、「何でもない!」と声を荒げて野次馬の視線を蹴散らした。 「いくらって、ぼくは男娼じゃ……」 「レオンさんも、レオンさんだ。婚約者をほうっておいて男遊びをしているなんて、しかも、こんな年かさの男を相手にしているなんて。だから、趣味が悪いと噂を立てられるんだ」  懐から取り出した財布を広げ、紙幣を三枚引っ張り出したニルフが、殴るようにどん、っとビーシュの胸に突きつけた。  受け取ろうとせず、呆然と立ちすくむビーシュに、ニルフは「口止め料も必要か?」とあからさまな侮蔑を感じる舌打ちをした。 「婚約者、って? レオンくん、結婚が決まっているんですか?」     
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