一章 矢車菊の青い瞳は

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 ドジなのは昔からのことで、ビーシュもさすがに自覚はあったが、さすがに今日は調子が悪すぎた。 「あんなに、停留所に人がたくさんいるだなんて。今日は、なにかあったっけ?」  転んだ拍子にぶつけた膝をさすり、ビーシュはポケットから、ペリドットで作った義眼を取り出した。  仕事ではなく趣味で作ったものなので、傷がはいろうと欠けようと困らないが、がっかりはする。  よくよく見なければ気がつかないほどの小さな傷ではあったが、ビーシュはがっくりと肩を落としてため息を零した。研磨すれば綺麗になるとわかっていても、気持ちは沈む。  とてもよくできた作品だっただけに、残念としか言い様がない。 「無くすよりは、良いけれど」  作業台の上に置いてある年代物のケースを手元に引き寄せ、鍵を開け、ふたを持ち上げた。 「いや、そもそも持ち歩かなければ傷なんてつかないんだけどね」  ケースの中にはほかにも、宝石で作った義眼が並べられている。  宝石そのものの価値はさほどではないが、どれも加工の技術で美しく仕立てられていた。  ペリドットの義眼を所定の場所に戻し、しっかりと鍵をかける。     
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