690人が本棚に入れています
本棚に追加
ドジなのは昔からのことで、ビーシュもさすがに自覚はあったが、さすがに今日は調子が悪すぎた。
「あんなに、停留所に人がたくさんいるだなんて。今日は、なにかあったっけ?」
転んだ拍子にぶつけた膝をさすり、ビーシュはポケットから、ペリドットで作った義眼を取り出した。
仕事ではなく趣味で作ったものなので、傷がはいろうと欠けようと困らないが、がっかりはする。
よくよく見なければ気がつかないほどの小さな傷ではあったが、ビーシュはがっくりと肩を落としてため息を零した。研磨すれば綺麗になるとわかっていても、気持ちは沈む。
とてもよくできた作品だっただけに、残念としか言い様がない。
「無くすよりは、良いけれど」
作業台の上に置いてある年代物のケースを手元に引き寄せ、鍵を開け、ふたを持ち上げた。
「いや、そもそも持ち歩かなければ傷なんてつかないんだけどね」
ケースの中にはほかにも、宝石で作った義眼が並べられている。
宝石そのものの価値はさほどではないが、どれも加工の技術で美しく仕立てられていた。
ペリドットの義眼を所定の場所に戻し、しっかりと鍵をかける。
最初のコメントを投稿しよう!