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ビーシュがいつも利用しているバーは、通りより少し奥まった路地にある。
珈琲を買うため、ペリドットを換金して得た金は殆ど手をつけていない。遠慮することなく、交渉できるだろう。なんなら、サファイアもポケットに入っている。
歩調を緩め、ビーシュはポケットに手を突っ込んだまま、バーへと向かった。
馬鹿なことをしているのは、嫌になるほど知っている。快楽に溺れるのは、麻薬に溺れているようなものだ。
今はなんともなくとも、いつかきっと自滅する日がくるだろう。
娼婦業から足を洗った大姐さんは、さんざんビーシュのだらしなさを叱った後に「幸せになるんだよ」と、きまって呪いをかける。
「幸せって、なんだろう?」
レクト夫妻の姿が脳裏に浮かんでくるが、幸せと思うよりも先に、得体の知れない恐れが、ビーシュをたじろがせる。
呪いをかける大姐さんも、きっと、幸せというものがどんな形をしているのか知らないのだろう。
だから、願いではなく呪いになるのだ。
いつの間にか足は重く、行き交う人々から舌打ちが投げかけられていた。
ポケットの中で、サファイアをぎゅっと握りしめる。
粉々に砕くよう力を込めてみても、痛いだけでびくともしない。
「ぼくだって、幸せに、なりたくないわけじゃないんだよ」
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