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色あせた世界の中でもでも、じゅうぶんに生きてゆける。
ビーシュは立ち止まり、来た道を振り返った。
星々が散る夜空から飛び出すよう、光にあふれた欲の塊が、手ぐすね引くように揺れている。
幸せの形なんてさっぱりわからなくとも、なんとなく望んでしまうのだ。
自分を殺す毒になるかもしれないのに、追い求めてやまないのは、まだ、人であるからだろう。
「おい、おっさん! ぼうっとつったってんじゃあない、邪魔だ!」
強いアルコールの匂いと、怒声。ビーシュは声に振り向こうとして、体当たりをされふらついた。
「ぼんやりしていると、悪い男に食べられてしまうよ」
「……エヴァン様、どうして?」
「どうして、とはつれないね。ビーシュをさがしていたのだよ」
しっかりと肩をつかんでくる手。振り返れば、エヴァン・ロナードが立っていた。
エヴァンは因縁をつけようとしていた通行人を一瞥するだけで払いのけ、ビーシュの肩を支えたまま、道の端へと誘導した。
上客と見て、すかさず近づいてくる客引きに、エヴァンは手を上げてこなくて良いと制し、ビーシュを後ろから抱きしめた。
「意中の相手に放置される経験は、さすがの俺も初めてだ。どうしたんだね、ビーシュ。ほかに、いい男を見つけたのかい?」
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