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温かいシャワーを浴び、ふわふわのタオルで体をくるんだまま部屋に戻ると、大きなソファに座ったエヴァンが、真っ赤なワインを煽っていた。
ビーシュがまともに酒を飲めないのはもう知っているので、エヴァンは無理に勧めてこようとはしない。
一緒にグラスを傾けられないのは心苦しいところはあるが、飲めないからといって気分を害したりしないエヴァンの紳士的な対応はありがたい。
「あの、エヴァン様。すみません、放ったつもりはないのですが」
「気にしないで良い、すこし意地悪をしてみたくなっただけだからね。濃厚な夜をともに過ごしてはいるが、俺たちは恋人同士でもない。君は娼婦ではなく、俺も客ではない。互いに自由に過ごす権利ある。かまわないよ」
エヴァンが薄いグラスを回すと、室内にかぐわしい香りが広がった。
エヴァンの存在は、どこか浮き世離れしている。
「それで、サファイアはもういらないのかい?」
「はい、その……申し訳、ないです」
グラスに残ったワインを飲み干し、立ち上がったエヴァンはゆっくりとビーシュに歩み寄ってくる。
石鹸と混じる甘い香水の匂い。
ワインの芳醇な香りも混じり、視界がくらくらと眩んで息が荒くなる。
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