三章 寒空のした

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 シルクの肌触りは、相変わらず上質だ。  扉を一枚挟んで聞こえてくる水音を聞きながら、ビーシュは寝室をぼんやりと照らす淡い色の照明を見やる。  朧月のような、幻想的な明かりはささくれだった胸中をやんわりと包んでくれた。  エヴァンは、いつまで帝都にいるのだろう。サファイアの取引を反故にしても、エヴァンは夜をともにしてくれそうではある。 (あぁ、何をしているんだろう。……ぼくは)  男に抱かれるために、夜の街に出た。  体のほうは乗り気なのに、気持ちはどんよりと曇っている。  今ここでエヴァンに抱かれるのも、バーで買った行きずりの男に抱かれるのも同じだ。目的は達しているはずだ。  だというのに、どうして胸は晴れないのか。  快楽は、すべての嫌な事柄を全部埋めてくれるものであったはずなのに。今は、すこし億劫だ。  いつの間にかシャワーの水音が止まっていて、空気に少し湿ったものが混じる。エヴァンが出てきたのだろうか。  息を殺して、ビーシュは分厚い絨毯に隠される足音を探す。  さくり、さくりと寝室に向かって近づく音。あと一歩、ドアノブに手が掛かるだろう位置で呼び鈴が鳴った。 「誰だろうね。少し、待っていてくれるかな?」     
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