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ドアの向こうから掛かる声に、ビーシュは「はい」と頷いた。
タオルではなくシーツを頭からかぶってベッドをそっと降りて、ドアの前でしゃがみ込む。
少しばかりドアを開け様子をうかがったビーシュは、エヴァンと対峙する青年の顔を見て声を上げそうになった。
ニルフ・アーカムだ。
貴族らしい整った顔立ち、いつも怒りをたたえているような若者らしい強い視線を、エヴァンに向けている。
一瞬、ビーシュを追って来たのかとも思ったが、違うだろう。
椅子の背にかけたままの上着にねじ込んだ手切れ金で、すべて事を済ませた気になっているはずだ。エヴァンに用があってきたのだろう。
「盗み聞きなんて、行儀が悪いよね」
上層階級同士の、積もる話があるのかもしれない。貧乏人より少し毛の生えたような身分には、なんら関係ないだろう。
「君は、たしかデニス・アーカムの息子さんだね。恐ろしい顔をして、いったい俺に何の用があったきたのかい?」
「メルビスの宝飾品と、エーギル・バロウズという商人についてご存じのことをお聞かせ願いたい」
気付かれないようにそっと立ち上がろうとして、ビーシュは聞き知った名前に振り返った。
「メルビス? メルビス・ハヌマー?」
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