三章 寒空のした

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「え、ええ。ご迷惑をおかけするつもりはありません。ロナード様は父の大切なご友人でございますから」  さすがに、エヴァンの察するところを理解できたか、ニルフは顔を赤らめた。  意外と初心な反応に、エヴァンの表情が少しばかり柔らかくなった。  場の空気の緊張が少し緩み、ビーシュはニルフと一緒になってため息をついていた。 「これは、秘密のお話なのですが……じつはロナード様にお見せしたティアラが何者かに盗まれたのです」 「……俺を疑っているのかね? わざわざ盗まなくとも、式が終われば金次第で手に入れられるのに? 懐の狭い男と思われるのは、心外だな」  エヴァンはソファーに座り、グラスに新しくワインを注いだ。 「いえ、決してそのような。ただ、父がメルビスのティアラを買い求めたのを知るのは、ごく一部の人間だけ。盗まれたものは、ティアラ一つ。宝物庫にはほかにも価値のある装飾品があったにもかかわらず。ただの物取りとは思えません。何らかの意図を感じるのです」 「脅迫状でも届いたのかね?」  まともに取り合う気のないエヴァンに屈することなく、ニルフは続けた。「姉、エリスの結婚も控えているなか、弟として、誰が何のために盗んだのかはっきりとさせたいのです」 「エリス嬢に、何らかの危害が与えられるかもしれないと?」     
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