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祖父、メルビスは手先が器用だったが、あくまで本業は装具技師だ。
美術品としての価値は無いとまではいわないが、さほど高くはないはずだ。
「父の影響だよ。俺の父は芸術には疎いが、愛したものを愛するのがとても得意でね。メルビスの作品を購入するたび、女を口説くようにどこがいいだのとあそこがいいだのと、熱心に語っていた」
箱を支えるビーシュの手の上に手を重ね、エヴァンは声を熱くさせてゆく。
「あまりにも熱心に語るものだから、いつしか俺の中に、メルビスへの強い恋心が生まれていた。似合わないと笑うかもしれないが、偉大な芸術家が生み出した高価な美術品でもなければ、宝石でもなく。名の知れぬ作家の、すこしいびつな作品に心を奪われてしまったんだ」
メルビスの作品は、酔狂な富豪の気を惹くべく高値で取引されるようになり、芸術品のように扱われるようになった。
おそらく、祖父は自分の手から離れた作品がまさか宝物のように扱われているとは思ってもみなかったろう。
喜ぶのか、迷惑ぶるのかは、ビーシュにもわからなかったが。
「エヴァン様は、おじいちゃんに会ったことがあるのですか?」
「いいや。けれど、君がメルビスに連なる者であると俺にはちゃんとわかるよ」
エヴァンの右手が、箱の錠を開けた。
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