三章 寒空のした

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 二枚貝のようにぱくっと開いた蓋の隙間から、きらきらと瞬く光が覗く。 「ビーシュ。君はある意味、メルビスの作品だ。俺の心を惹きつけてやまない芸術品なんだよ」  体を撫でる手が、官能の火をともそうと怪しくうごめく。  びくん、びくんと素直に反応を示す体を笑われ、羞恥心にビーシュは唇を噛んだ。  違うと、思っていた。  優しい人なのだと、思っていた。 (同じだ。エヴァンさんは……同じだった)  ビーシュを何かの代用品にしてむさぼる男たちとエヴァンは、本質的には同類だ。 「ん、あっ……うぁ、え、えう゛ぁん、さま」 「今日は、いつもよりも素直だ」  いったん火がつけば止められない官能の火に、体が溶けだす。  行きずりの男とさほど変わらないのならば、心配するものなどなにもない。不安は消え、迷っていたぶん安心感が強まった。  緊張のほぐれた体は、貪欲に快楽を求めてゆく。おぼれるように、逃げるように。 「さあ、一緒に見よう。メルビスの首飾りは、一番好きな作品でね」  震えるビーシュの代わりに、エヴァンが箱の蓋を持ち上げた。  クリスタル。  ダイヤモンド。  ルビー。  銀細工が眩しい首飾りが、箱の中でぎらぎらと輝いていた。 「美しいだろう、ビーシュ」     
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