三章 寒空のした

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 ふわふわと溶け出した思考の中で頷こうとしたビーシュは、首飾りをじっと見つめ、首を横に振った 「こ、これ……おじいちゃんの作品じゃ、ない」  エヴァンの表情が曇る。 「まさか、ありえない。この私が、確認したのだよ、ビーシュ」  声に怒りの色が滲み、肩の肉に爪が食い込むほど強く掴まれる。  このまま、肉を引きちぎられてしまいそうな痛烈な痛みに快感は吹き飛び、苦痛に視界が明滅する。  人が変わったようなエヴァンの激高に、ビーシュは呻きながらも首を振った。 「とても精巧な、ほ、本物よりもずっと精巧な……偽物、です」  本物よりも美しく、形作られた首飾り。  メルビスのようでいて、その本来のいびつな部分をすべて作り直した、ある意味挑戦的な偽物だ。 「は、はな……して、痛い」  震える手を伸ばし、肩をつかむエヴァンの手に重ねる。 「すまないね、ビーシュ。怪我をさせてしまった。らしくない姿をみせてしまった。恥ずかしいよ」  エヴァンが手を離すと、白い肌を血の筋がするりと垂れていった。 「まずは、手当をしないといけないな」 「――いえ、これくらい放っておいても大丈夫です」 「舐めれば治るのかな?」  腰を上げかけたエヴァンは、そのまま振り返ってビーシュをベッドに押し倒した。     
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