三章 寒空のした

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「俺よりもいい男ができたというのなら、君の気が変わるまで愛してあげよう。形だけの取引は、もうやめにしないかね、ビーシュ」  ぐっと、強引に開かれた足の内側には、レオンハルトがつけた情事の証が残っていた。  エヴァンは一つ残らず、上から塗りつぶすように肌を吸い上げ、歯を立ててゆく。  敏感な場所への強い刺激に、びくびくと震える様を至近距離で見つめられ、羞恥心に顔が熱くなる。 「忘れさせてあげよう。忘れるために、俺のところに来たんだろう?」  いつも以上に快楽に溺れる体は、エヴァンの言葉を肯定しているようなものだ。  性急なエヴァンの愛撫にもだえながら、ビーシュはシーツに埋もれる首飾りを見た。 (ぼくは、これを知っているような気がする)  本物以上の贋作。  まるで作者の存在を誇示するような、そんな意思さえ感じた。やろうと思えばいびつな部分さえ再現できたはずなのに。  繋がりかけた思考は、すぐに体を揺さぶる強い力によってばらばらに散っていった。 「あっ、ん、んんっ、え、えう゛ぁん……さ、まっ」 「まいったな、こんなにも夢中になるとは思ってもみなかった」  昨晩、レオンハルトがむさぼっていた場所を、エヴァンが一つも残さない勢いで、ことごとく蹂躙してゆく。 「君を楽しませた男に、年甲斐も無く嫉妬しているよ」     
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