四章 甘く包まれる

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 ローズマリーから採れた蜂蜜を垂らすと、甘くすっきりとした香りが広がった。とても、エリスらしい嗜好品だ。 「まあ、部屋にこもってばかりいるから仕方ないけれど。で、レオンのお友達はどんな人なの? 珈琲が好きってところ以外のことを教えてちょうだい?」  暖かい湯気をくゆらすカップを持って、エリスは天蓋付きのベッドの端に腰を下ろした。  小さい頃はなんて美しいお姫様かと思ったが、にこにこと笑う仕草は人なつっこくどこか素朴で、意思が多少強いものの、エリスはどこにでもいそうな普通の女性だった。 「楽しそうだね、エリス。僕との婚約話よりもずっと、興味津々だ」 「レオンの気を惹く人なんだもの、きっと魅力的な人に違いないわ」  大きな目をきらきら輝かせ、早く早くとせがんでくるエリスを見ていると、ビーシュを思い出す。  何事にも控えめで、一歩引いてばかりいるように見えるビーシュだが、見つめてくる視線だけは強い。 「そうだね、アメジストのような紫の瞳がすごく印象的な人だ。帝都に戻ってからすぐに知り合ったんだけど、どうしてだろうね、風が吹けば消えてしまいそうなほどに儚いのに、忘れられないんだ」  どちらかと言えば紅茶をよく飲むほうだったが、ビーシュと知り合ってからは珈琲を飲むようになった。  苦くて深く、舌に残る強い味。     
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