四章 甘く包まれる

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 実際の眼球より少し大きい宝石義眼は、ビーシュの手のひらの上でひんやりとなじんだ。  美しいサファイアの義眼。  レオンハルトとの、短い思い出の名残。結局は捨てられずに、ずっと持ち歩いていた。  忘れることができないのなら、せめて美しいままで。ビーシュはころころと手のひらの上で義眼を転がし、光の入り具合で色味を変化させる宝石義眼を眺める。  レオンハルトの青よりは少し薄く、透明な色。人とは違って無垢な視線は、見つめるほうの気持ち次第で意味を変化させる。  関係を持った男たちは、いつもビーシュを通して別の誰かを、何かを見ていた。  ぼんやりとしていて鈍くても、それくらいは理解できる。  体の深いところをいくら貫かれようとどこか満たされないでいるのは、見つめてくる目の中にいられないでいるからだろう。 (あぁ、でも……レオくんはどうなんだろう)  美しいあのサファイアの中にある人は、誰なのだろう。  ニルフの言っていた婚約者だろうか? わからない。思い出そうとすれば、自分の顔に見つめられているような気分にもなる。  手のひらにのせていた宝石義眼を摘まみ、ビーシュはそっと唇で触れる。  つるりとなめらかな表面は肌に心地よく、人肌よりも少し冷たい感触は心地良い。 「……んっ」     
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