一章 矢車菊の青い瞳は

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 くすんだ金髪を短く刈り込んだ、辛気くさい雰囲気の漂う工房には似つかわしくないさわやかな青年が、クンクンと鼻を動かした。子犬のようで、かわいらしい仕草だった。 「ありがとう。どんくさいけど、手先だけは昔から器用でね。もしかしたら、軍で装具技師をしているよりもずっとお金がもらえるかもね」 「ビーシュ先生のドジにもあきれないでいてくれる、こころの広い店員をつかまえられたら、ありですね」  よそ見をしていたら、少しばかりお湯を手にかけてしまった。  熱さにじりっと痛む親指を咥えると、フィンが 「あいかわらず、おっちょこちょいですね」と笑っていた。 「ひどいな、フィンくんは」  二回りも違う年下の青年には、笑われてばかりいる。  言った側から仕方ない人だ。と、あきれ顔をつくって救急箱に手を伸ばすフィンに「大丈夫」と手を振った。じりじりと痛むが、手当をするほどではない。 「珈琲、フィンくんの分も入れてあげようか?」 「せっかくですが、遠慮しておきます。これから、ミュレー先生の診療所での手伝いがありますので」  棚から取り出しかけたカップを、再び戻す。 「あぁ、そういえば。五日間の予定だったかな。ミュレー先生に、よろしく言っておいてね」 「五日も工房を離れるなんて、ビーシュ先生が怪我しないか心配になってきますね」     
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