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ビーシュは大きく息を吸って、そろりと舌を伸ばして宝石義眼をおそるおそる舐める。
「はぁ、う……んっ、んっ」
飴をなめるように舌を絡め、手に唾液がしたたる頃には、唇をもつかって宝石義眼をむさぼっていた。
ちらっと、手元を見やればとろとろに濡れたサファイアが妖しい光をたたえ、ビーシュを見つめ返している。
ちゅく、ちゅるっと誰もいない静かな工房に水音が響く。
寂しさが埋まらない。
何をしても、むなしさが積もってゆく。
諦めて、諦める振りをし続けて、気付けば四十を超えていた。もうそろそろ、お金を積んでも誰にも相手にされなくなるかもしれない。
共においでと手ぐすねを引いてくるエヴァンに従えば、不安もいくらか解消されるだろうか。
偽物のまま、満足できてしまう日が来るだろうか。
「ん、んっ」
口を開け、宝石義眼を頬張る。
じりじりと体の芯が焼けるようなしびれにいつしか手は下肢へ伸びていて、服をくつろげるのも忘れて快感を追っていた。
指先を濡らす唾液と、内からあふれる快楽の兆しが服に染みを広げてゆく。
快楽は好きだ。
終わった後には後悔と虚無感に頭を抱えるが、している間は何もかも忘れていられる。
彼に、夢中になれる。
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