四章 甘く包まれる

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「かっ、帰って。だめだよ、れおくん」  濡れた体を縮ませて、ビーシュは首を振った。ニルフの言葉を何度も何度も思い出す。  レオンハルトには、将来を約束している女性がいる。  邪魔をしてはいけない。ビーシュは義眼を握りしめた手に手を重ね、爪が食い込むほどに強く力を込めた。 「どうして? ビーシュは、僕と一緒にいたくないの?」  レオンハルトは、ビーシュの葛藤など素知らぬふりで、問い返してきた。  ビーシュは唇を噛んでうつむき、頭を振るしか無かった。  行かないで欲しい。  けれど、一緒にいないほうが良いに決まっている。  立ち去らない。  近づいても来ない。  体をこわばらせるばかりのビーシュが振り返るのを、レオンハルトはただじっと、待っているようだった。 「結婚、するんでしょ?」  ようやっと吐き出した声は、情けなくなるほど震えていた。 「ぼくなんか、構ってちゃいけないよ」  冷えたからだが悲しくて、ビーシュはさらに己の体を抱え込んだ。 「悲しくなることを、言わないでビーシュ」  かつん。  一歩、靴音が響く。  甘い蜜の匂いがして、ビーシュは嫌々と首を振った。 「誰から聞いたのかな?」     
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