四章 甘く包まれる

12/50
前へ
/289ページ
次へ
「ニルフくんが、昨日……れおくんと一緒にいるところを見ていたんだ。近づくなって、迷惑だって。彼の言うとおりだよ。ぼくと一緒にいちゃいけない」  こつん。  つま先が、椅子の脚を小突く。  逃げようにも逃げる場所はなく、後ろから覆い被さってくるレオンハルトに、ビーシュは頭を振り続ける。 「ごめんね、ビーシュ。ニルフにも、悪いことをしたようだ」  肩を撫でる手が温かくて、すがりそうになる。  振り払わなければならないと思っていても、体はぬくもりをひたすら求め、動けないでいる。 「ビーシュと一緒にいるのがとても楽しくて、いろいろと忘れていたんだ。……エリスにたっぷりと怒られてきたよ」  レオンハルトは「僕の婚約者だったひとだよ」と苦笑を滲ませた。 「結婚はしないよ。解消されてしまったからね」 「どうして、しないの? した、ほうがいいよ。ぼくと一緒にいちゃいけないよ」  肩を撫でる手が、体の線をたどるよう降りてくる。  すっぽりと背後から抱きかかえられ、ビーシュは耳元をくすぐる吐息に身じろいだ。冷えていた体に、再び熱がともり始める。 「ビーシュと一緒にいたいから、しないよ」  首を振ろうとして、顎をしっかりと掴まれる。 「駄目と言わないで、ビーシュ。どうしたら良いか、わからなくなってしまうから」  ちゅく、と触れるだけの口づけ。     
/289ページ

最初のコメントを投稿しよう!

690人が本棚に入れています
本棚に追加