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「なにも、怖くなるようなことなんてないよ」
下肢をいじる手を止め、レオンハルトは義眼と一緒に強くビーシュの手を握りしめてそっと、抱きしめてくる。
「僕は、ビーシュに夢中だ。誰かを苦しいほどに愛おしいと思ったのは、初めてで、正直戸惑っているよ」
目を開けて。
ささやく声に、ビーシュはゆっくりとまぶたを持ち上げる。
生活の一部となった、質素で殺風景な工房。終の棲家にするには、少し寂しい場所。
レオンハルトに後ろから抱きかかえられたまま、快感に疼く体をそのままに、ビーシュは繋いだ手を胸に押しつける。
「どうして、ぼくなの?」
息を荒くさせながら、ビーシュはレオンハルトを振り仰ぐ。
「ぼくは、本当につまらない人間だよ。いろんな人と寝てきた、汚らしい男だよ? おまけに、若くない。れおくんは、もったいなさ過ぎる」
「好きになる理由がないと、ビーシュは不安かい?」
見下ろしてくるサファイアの瞳の色が、濃くなる。
相変わらず穏やかな笑みをたたえているレオンハルトだったが、目元は興奮に赤く染まり、吐く息は獣のように荒く浅くなっていた。
目の前にいるのは、雄だった。
ビーシュはぞくぞくと背中を振るわせながら、どうすべきか必死になって頭の中を探った。
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