一章 矢車菊の青い瞳は

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「ひどいな。フィンくんが来る前まで、一年くらいはずっとぼくひとりでここを回していたんだよ」  義手や義足を必要とするほどに負傷した軍人の殆どは、軍を退役して一般人に戻る。年金を受け取りつつ、軍病院や帝都の病院で予後の面倒を見てもらうのが普通だ。  日常に戻るまでの間、新しい手足になれる手伝いをし、患者の一生を支える手足の整備をし続けるのが、ビーシュの仕事だ。  フィンはなり手の少ない軍属の、装具義肢の期待の新人だった。  ビーシュの久しぶりの弟子であり年の離れた弟のような存在でもある。人柄も、見た目とは違い温厚で気の良い青年だ。患者からの評判も、上々だった。 (いつまで、ここにいてくれるかはわからないけれど)  負傷した兵士と同じく、ビーシュは自分の持ちうる技術を教え込んだ弟子たちを、多く世に送り出してきた。  フィンが手伝いに行くミュレーも、ビーシュの弟子の一人だ。帝都は今も拡張工事が続いており、軍人ほどではないが事故によって四肢を損傷するけが人もいる。  軍人と一般人。どちらにやりがいを感じるかは人それぞれだが、報酬の面で外の世界を選ぶ装具技師は少なくない。 「ミュレーも、いい人だし器用だからね。勉強になると思うよ」     
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