四章 甘く包まれる

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3 「どういうことですか! 婚約を解消するだなんて!」  響く怒号に、皿からカップが飛び上がる想像をして笑い、エリスは顔を真っ赤にしているニルフに「そうよ」とだけ答えてポットにお湯を注いだ。 エリスには、嬉しいことがあると紅茶を飲む癖がある。  大枚をはたいて購入した茶葉はいつの間にか底が見えていて、そろそろ新しい茶葉を見繕いに外に出なければならなそうだ。丁度良い、久しぶりに外出を決め込むにはとても素晴らしい気分だった。 「私から、振ってやったのよ」 「だから、どうしてですか! レオンさんに何か不満でも?」  つかみかかってきそうな勢いではあるが、ニルフは暴力沙汰が得意ではない。 「不満? まあ、たくさんあるわ」  エリスは頭から湯気さえ立てそうな弟を無視して、お茶の準備を進めた。  全力で物事に取り組む熱心すぎるニルフは、その激しさに時に誤解を生むのだが、言ったところでなおるものでもない。心配してくれているのは、じゅうぶんにわかっている。 「そう、すぐに怒らないの」  幸いにも、ニルフの婚約者はよくできた女性だった。  エリスが気性の荒い弟の扱い方を仕込んでやると、いずれ義妹になる彼女はすぐに体得した。     
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