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アーカム家の将来は、黙っていても安泰なのだ。エリスが一人で一生を終えたところで、どうってことはないのだ。
「正直に言いましょう。少しは大人になったのではないかと思っていたのに、レオンったら何一つ昔のままなんですもの。あんな朴念仁、友達なら良いけれど、生涯の伴侶にするなんて頭が狂っているとしか思えないわ」
「ひどい言いようですね」
エリスと違い、レオンハルトに好感を持っているらしいニルフは気分を害したと口をへの字に曲げた。
「妥当な評価だと思うけれど。とにかく、お話はお父様とお母様にはお通ししてあります。本来ならばお父様が直接、オスカー家にご挨拶しなければならないけれど、具合が良くないそうなので、ニルフが代わりに行って頂戴」
ポットから、かぐわしい紅茶の香りが漂う。
「次代のアーカム家の当主としての、大切な仕事よ」
「拒否権はないのですか?」
エリスはニルフの分のカップも用意して、紅茶を注いだ。
お気に入りのローズマリーの蜜は、餞別とレオンハルトに押しつけたので、代わりに角砂糖をいれる。
「姉さんは、あの男のこと、まだ忘れられないのですか?」
絨毯をむしるよう乱暴に歩いてきたニルフは、素知らぬ顔でいつもの日課を淡々とこなしているエリスに肩をすくめ、椅子に腰掛けた。
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