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「ニルフ。あなたは私が死んだら、綺麗さっぱり忘れられるのかしら?」
「……家族と恋人は、違うでしょう?」
平行線をたどりそうな返答に、エリスは舌の上ににじみ出てくる苦みを砂糖をたくさん放り込んだ紅茶で流した。
昨晩は、しばらく誰にも話していなかった彼のことを、レオンハルトに語った。だから、いつも以上に感傷的になっているのかもしれない。
言葉を紡げば、真っ向から返してくるニルフの真摯さは、素晴らしいが重すぎる。
他人の気持ちなど知ろうともしないレオンハルトの無頓着さが、今のエリスにはちょうど良いのかもしれない。
「大変だったんだね」なんておざなりな台詞が心地良いとは、思ってもみなかった。
「私、結婚はしないわ。誰ともね」
カップを持ち上げた手を止めて、凝視してくるニルフにエリスはにんまりと微笑んだ。
「アーカム家の繁栄は、ニルフ、私でなくあなたの仕事でしょう? 子を産むためだけに男をあてがわれる人生なんて、じつに私らしくない」
甘すぎる紅茶を皿に戻して、エリスは椅子から立ち上がった。
窓の外から見える空は、とても青く澄んでいる。ぶらぶらと出かけるには、気持ちの良さそうな天気だ。
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