四章 甘く包まれる

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「死んだ男に、いつまで囚われているのですか? いくら思ったって、あの人は帰ってこない。なら、幸せに生きるべきでしょう?」 「あの人は、私が送る人生の先で、待っていてくれている」  理解できないと、もしかしたら狂っているとでも思ったのかもしれない。表情を曇らせるニルフをエリスは笑うしかなかった。  姉弟であっても、理解できることとできないことがある。幸せの形が、同じではないからだ。 「ニルフ、あなたが心配するほど、私は不幸ではないのよ」  だから、安心してほしい。  理解されないだろう言葉を飲み込んで、エリスは外出着を選びにクローゼットへと駆けだしていた。 ◆◇◆◇  宿屋に併設されている高級リストランテで、エヴァンは遅めの昼食を取っていた。  エヴァンの傍らには、灰色の髪を短く切りそろえた、男装の秘書サティが直立不動で控えている。  富裕層しか足を踏み入れないような場所ではあるが、連れの者を侍らすのではなく立たせているのはエヴァンだけで、気むずかしい客を相手にしてきたであろう店員たちも、どこか一歩引いているように思えた。 「サティ、エーギル・バロウズ氏をどう見る?」  ミディアムレアにローストされた肉をナイフで切り分け、添え付けのつぶした芋をからめて口に運ぶ。ぴりっとした黒胡椒が、食欲をそそる。     
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