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「死んだ男に、いつまで囚われているのですか? いくら思ったって、あの人は帰ってこない。なら、幸せに生きるべきでしょう?」
「あの人は、私が送る人生の先で、待っていてくれている」
理解できないと、もしかしたら狂っているとでも思ったのかもしれない。表情を曇らせるニルフをエリスは笑うしかなかった。
姉弟であっても、理解できることとできないことがある。幸せの形が、同じではないからだ。
「ニルフ、あなたが心配するほど、私は不幸ではないのよ」
だから、安心してほしい。
理解されないだろう言葉を飲み込んで、エリスは外出着を選びにクローゼットへと駆けだしていた。
◆◇◆◇
宿屋に併設されている高級リストランテで、エヴァンは遅めの昼食を取っていた。
エヴァンの傍らには、灰色の髪を短く切りそろえた、男装の秘書サティが直立不動で控えている。
富裕層しか足を踏み入れないような場所ではあるが、連れの者を侍らすのではなく立たせているのはエヴァンだけで、気むずかしい客を相手にしてきたであろう店員たちも、どこか一歩引いているように思えた。
「サティ、エーギル・バロウズ氏をどう見る?」
ミディアムレアにローストされた肉をナイフで切り分け、添え付けのつぶした芋をからめて口に運ぶ。ぴりっとした黒胡椒が、食欲をそそる。
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