四章 甘く包まれる

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4  不穏な噂が、飛び交っている。  エーギル・バロウズは黒服の部下を従え、貴族街を歩きながら、落ち尽きなくきょろきょろと周囲を伺っていた。  馬車を借りる手持ちが無いわけではない。金なら、潤沢に持っている。  馬車という狭い空間で襲われる恐怖感から、エーギルは周囲を屈強な護衛で固めて、徒歩で移動をしていた。 「もうすぐ、あらかた売り尽くせるっていうのに! なんだってんだ」  どうにもここ最近、貴族街で盗難事件が続いているらしい。  らしい。という噂でしかないのは、体面を取り繕うのが一番である貴族連中が、積極的に公にしたがらないだけで、社交界で必ず登る話題となっている。  鮮やかな手口で宝飾を盗み出す盗賊。  その姿を見たのはアーカム家の長男、ニルフだけであったが、その突飛な姿は話題と噂を集めた。  道楽好きな貴族は、我が家にも盗賊が来たと楽しみ。神経質な貴族は、我が家にも盗賊が来るのではないかと商談を渋りもした。  貴族相手に直接商談をしているエーギルにとっては、得体のしれない怪盗の悪行は腹立たしかった。  商売あがったりとまでは行かないものの、明らかにやりにくくなった。     
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