四章 甘く包まれる

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 くすんだ金髪を頭の後ろで一つにまとめ、周囲にいる黒服と同じ黒をまとってはいるが、護衛とは言いがたい体格だ。 「だまっていろ、オリヴァー。おまえに言われるまでもなく、そろそろ潮時だってのはわかっている。あと一つ、大きい仕事をこなしたら、さっさとずらかるさ。がたがた言ってんじゃねえぞ」  客を相手にするときの猫なで声でなく、踏まれた猫のようなだみ声でたたみかけてくるエーギルに、オリヴァーは「ああ、そうですか」と気のない返事をして歩調を早くした。  もたもたと歩くエーギルを追い越し、鞄の口を開けて中を覗き込む。 「まったくわかっちゃいねぇな、あの強欲爺は。危ない橋をなんど渡れば気が済むんだよ」  贋作商人にはお似合いの、節穴っぷりだ。上手くいくとしか思っていないから、たちが悪い。  ちまたを騒がしている怪盗は、ただの酔狂な変人ではない。  エーギル・バロウズの名義以外にも複数、名前と人を使い分けメルビスの宝飾品を貴族に売り込んでいるが、怪盗はことごとくエーギルが売ったものだけを狙っている。  これを、ただの偶然と片付ける無神経さは、呆れるを通り越して苛立ちがつのる。     
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