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怪盗の正体はまったくもってわからないが、向こうはこちらの動向のすべてを把握している。把握した上で、直接攻撃を仕掛けてくるのではなくメルビスの宝飾品だけを狙っている。
気持ちが悪かった。
ただの贋作売りであるエーギルは、まったくもって感じ取ってすらいない。そんな馬鹿にくっついていなければ仕事にありつけない自分も、自分ではあるが。
オリヴァーは革張りの箱の中に納められている作品を覗き込み、すぐにしっかりと口を閉じた。
物事の本質は、いったいどこにあるのだろうか。質や美しさではなく、名前によって値段が変わる贋作品たち。
生きるためとはいえ、むなしくなるばかりの仕事を重ねてきた。
偽物ではなく、できるならば自分の作品を世に生み出したい。夢は今も胸にあるが、足を洗うには、五十という年齢ではもう遅い。
「おい、オリヴァー! そっちじゃねえ、戻れ」
「へいへい、わかってるよ旦那」
考え事をしていたら、曲がるはずの道をまっすぐに進んでいた。
丸顔から湯気を噴き出しそうなエーギルに適当に手を振り、オリヴァーは小走りに黒服の集団を追いかけた。
「なんで、あんな贋作が良いんだろうなぁ。個性的でなくとも、美しい作品のほうが価値があるはずだろう?」
まったくもって、よくわからない。
金持ちの道楽は、道楽すぎて理解が追いついてゆかなかった。
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