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よくできた偽物を喜んで買い付けてゆく貴族たちを見ては、なんて見る目のないやつらだろうかと笑ってやった。
見下し、現状に満足する振りをして、気付けば犯罪の片棒を担ぐようになっていた。
最初は腹を抱えて楽しんでいたが、慣れると急激なむなしさがおそうようになってきた。いまはただ、苦痛だった。
自分のものではない作品を作り続ける滑稽さは、自分がよくわかる。
「なんて、くそったれになっちまったんだろうな」
エーギルの大きな仕事は、エヴァンとの商談だろう。できるだけ、メルビスの宝飾品を売りさばきたいようだ。
乗り気のエーギルと違って、オリヴァーは片手にもった鞄を今すぐ坂の向こうに投げ捨ててやりたい衝動にかられていた。
路頭に迷うので実際にはできないが、心の中では何回も何回も、それこそ、投げ捨て、踏み砕き、火を掛けていた。
「なんて名前してたっけかな、あの、不器用なんだか器用なんだかわかんねぇガキは。ガキの戯言だと思わないで、信じていれば少しはかわっていたんだろうかな」
まだ、いまよりもずっと羽振りの良い頃。足繁く通った娼館でちょろちょろと動き回っていた子供。
オリヴァーの作った髪飾りをえらく気に入り、女でも無いのに髪に挿していた子供。
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